文化的衝撃

カルチャーショックとは何か

ゆっくり茶番劇問題って何?日本の知的財産権の法律はきちんと考えないといけない【東方Projectを知らない人向け】

ゆっくり茶番劇ってなんですか?

ゆっくり茶番劇ってのが大問題になってるって見たんだけど、いったい何?

ゆっくり茶番劇が商標登録されて問題になってるんですよ

それの何が問題なの?法律に違反してるの?

いやいや、法律上は問題ないんです。そうじゃないんです

ぜんぜんわからへん

2022年5月中旬。

突如としてインターネット上をあるニュースが駆け抜け、Twittterなどのタイムラインを埋め尽くしました。

「ゆっくり茶番劇」が商標登録された!

知らない人にとっては何のこっちゃですし、何が問題になっているのかもわからないでしょう。

しかし、これは日本の大切な文化に関わる重大な問題です。

今回は、日本人の多くが何のこっちゃわからないのに、いろいろな方面に多大なる影響を与えている「ゆっくり茶番劇問題」に関して、「ゆっくり」を知らない人向けにご説明したいと思います。

ゆっくり茶番劇問題って何ですか?

ゆっくり茶番劇とは「ゆっくり」と呼ばれる東方Projectの二次創作群のひとつです。

「ゆっくり」の中には「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」などがあり、その中に「ゆっくり茶番劇」というものも含まれています。

「ゆっくり」は実況や解説などのジャンルがありますが、その中でも茶番劇のようなやり取りのある動画のことを「ゆっくり茶番劇」と言います。

ゆっくりって何ですか?

そもそも「ゆっくり」とは何かという話ですが、元祖はアスキーアートでした。

POINT

アスキーアートとは:簡単にいうと文字を使った視覚表現。AAともいう。文字を使ってその並びや形などを利用して絵を描くというもの。2ちゃんねるによって爆発的に普及した。

2ちゃんねるの中でアスキーアートとして、東方Projectのキャラクターである「霊夢」と「魔理沙」に「ゆっくりしていってね!」と言わせたのがはじまりです。

ゆっくり茶番劇アスキーアート

ゆっくり茶番劇アスキーアート|制作:Dプ竹崎さん

現在では、おまんじゅうのような首から上だけの「霊夢」「魔理沙」という二人のキャラクターが、音声読み上げソフトによりやり取りをする動画全般を「ゆっくり」といいます。

ゆっくりを知らない人でも、ニコニコやYouTubeなどでおまんじゅうのような女の子二人がいかにも読み上げソフトといった声でやり取りする動画を一度くらいはちらっとでも見たことがあるのではないでしょうか。

ゆっくり茶番劇イラスト:まそさん

「霊夢」と「魔理沙」という二人の女の子が語る内容が、「実況」であったり「解説」であったりするわけです。

二人の女の子が動画の中で茶番劇を繰り広げるのが「ゆっくり茶番劇」です。

「ゆっくり」はすでに東方Projectの創始者ZUNさん(通称:神主)に二次創作として認められており、これに伴って、インターネット上には無数の「ゆっくり」が存在します。

もちろん「ゆっくり茶番劇」も例外ではなく、インターネット上にはモンスター級の再生数を誇る動画も存在し、誰でも自由に使用できるツールとして定着しています。

歴史自体ももう10年以上も続くもので、「ゆっくり」はみんなのもの意識は完全に定着しています。

そもそも、「ゆっくり茶番劇」自体が東方Projectの二次創作という立ち位置であり、一般の人も、ここまで聞けば、これを全く関係のない第三者が商標登録するというナンセンスさがわかっていただけるのではないでしょうか。

みんなのものであった「ゆっくり茶番劇」を、柚葉氏という一人の人物が、文字列として商標登録したというのが今回の事件です。

東方Projectって何ですか?

東方Projectとは、25年もの歴史を誇る同人プロジェクトです。

日本の同人サークル「上海アリス幻樂団」によって制作される弾幕シューティングを中心にした著作物群のことです。

実際には原作者ZUNさんの意向で「東方」と呼ばれることが多く、「シリーズ」をつけて称されることはほとんどありません。

ZUNさんは元々はゲーム制作の仕事をしていましたが、趣味で作曲もしており、自分で作った曲をかっこよく聴かせるシューティングゲームを制作したのが始まりです。

東方の二次創作に関しては、寛容でありながら、一部制限を設けたりして、盛り上がりの妨げにならなず、かつ、二次創作をする人間が楽しめる配慮がされています。

POINT

同人とは:同じ趣味や志を持っている人や団体のこと。

「ゆっくり茶番劇」はなぜ炎上したのか

ゆっくり茶番劇が炎上したのは、登録を申請した柚葉さん側に悪意があるように見えることに理由があったのは言うまでもありません。

もちろん、「悪意」が本当にあったかどうかは当事者にしかわからないことですが、少なくとも第三者からみて「悪意」があるととらえられても仕方ない言動が柚葉さん側にはあったということです。

それを踏まえた上でも、炎上した理由は多岐に渡ります。

筆者などは、これを25年間もコントロールしてきた神主ZUNさん(東方Projectの創始者)の手腕に驚きを隠せません。

今回、柚葉さんは、日本が大切にしてきた二次創作の暗黙のマナーをぶち壊したと言えます。

この罪は思うより重い気がしてなりません。

同人界隈に危機感を投げかけたと同時に、今まで大切に守られてきた暗黙のマナーをぶち壊したのです。

「ゆっくり」が好きな人に悪い人はいないというユーザーたちが無意識に目指してきた理想……小さな石を積み上げるように作り上げてきた理想を目指す階段を、根底からぶち壊したことになります。

ゆっくり茶番劇ことの顛末

  • 2021年9月13日 に「ゆっくり茶番劇」の商標が特許庁に出願されました。
  • 2022年2月24日 に「ゆっくり茶番劇」が正式に商標登録されました。
  • 2022年5月15日 に、柚葉さんがTwitterで「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得したと発表され、YouTubeにも商標使用に関する要綱を纏めた動画が投稿されました。このとき、ライセンス使用料の話も出ています。また、商標登録されてから異議申し立て期間を過ぎるまでの間、発表がされなかったことも含め、直後からネット上でSNSを中心に数多くの非難の声が上がります。ネット上では大変な騒動になりました。
  • 2022年5月16日 - 騒動を受け、取得を代行した弁理士が謝罪します。
  • 同日、19時44分、柚葉さんがTwitterにて、ライセンス使用料を不要にすると発表しますが、権利は保持すると主張し、騒動は鎮火することなくさらに炎上します。

同人界隈の有力者が参戦したことで大きく動く

ひろゆきさんや松丸さんなど有名な方々もカタチを選んで柚葉さんを非難するような発言をしています。

さらに神主ZUNさんもコメントを発表します。

どれも、柚葉さんの言動に否定的なものばかりでした。

  • 2022年5月20日に柚葉さんの所属する Coyu.Liveが柚葉さんに対し無期限会員停止処分を公表しました。また同じ日に同事務所が柚葉が商標放棄手続きを5月23日から開始する報告が来た旨を事務所のTwitterで発表します。
  • 2022年5月23日に、ドワンゴが見解を発表。当問題について商標の無効審判や「ゆっくり」のドワンゴによる商標登録に関する会見を行います。会見はオフラインで行われました。他の批判と違って、しっかりと公式に行われたということで、ネットをやらない層にも刺さりまくってしまいました。
  • 2022年5月24日 には、柚葉がtwitter上で2022年5月23日付で商標の抹消登録申請を行ったことを公表しました。

柚葉氏が商標登録抹消申請を出すが落着しないかもしれない

柚葉さんは、東方Projectを愛する人たちの信用をすっかり失っています。

商標登録抹消申請が事実かどうかを疑う人もおり、例え商標登録抹消申請が本当だったとしても、しばらく煙は燻るのではないでしょうか。

実際にSNSなどを見ると、しっかりと登録抹消がされたという発表がないと安心できないという声が多いようですね。

日本の同人文化はとても強い

今回は官房長官もコメントするほどの大事件になってしまいました。

今回の事件が起きた大きな理由は、複雑な日本の著作物に対する文化に法律が対応しきれていないということが原因です。

本来は、ゆっくり茶番劇は商標登録されてはならないものでした。

問題なのは、日本の法律が日本の複雑な著作物文化に対応しきれていないということです。

日本は「共感」や「同人」などといった好きなものを共有する文化であり、自分達の愛したものを、さらに盛り上げようという心が動く文化でもあります。

知的所有権に対する考え方が、「同人」という言葉が出てくるほど独特です。

残念ながら今の日本の法律では対応しきれていないのが現状です。

IP(知的所有権)に関する日本の考え方は独特である

海外などでは、知的所有権を保護するという考えがガチガチです。

対して、日本では、ディズニーの二次創作は厳しいと言われるほど柔らかい考えのかたが多いように思います。

もちろん、知的所有権を守ることはとても大切なことですが、日本の大衆文化の盛り上がり方はいつも二次創作が絡んでいます。

日本の知的所有権に関する考え方は「マナー」ありきです。

「マナー」を破るやつなんか居ないという前提でないと日本の大衆文化を守ることはなかなか難しいと言えるかもしれません。

IP(知的所有権)が独特な日本では日本独特の法律を採用すべきでは?

海外の人たちからも褒め称えられることの多い「マナー」を守るという文化が、日本のサブカルを守ってきたと言えるわけですが、日本の法律では「マナー」を破る人が出てきた時に対応しきれないということが今回の事件でわかりました。

しかし、海外のようにガッチガチに法律で固めてしまっては、日本の良い文化を継承できないということになってしまいます。

有識者で話し合って、なんとか日本のこの独特の文化を守る法律を採用していただくことを切に願います。

まとめ:日本独特の「みんなで共有する」という感覚は捨てないで

クリエイターはいつも美学を持っているべきではないでしょうか。

自分なりの美学がなければ、クリエイターとは呼べません。

「人の作ったものを自分のものにする」という行為は、クリエイターとしては最もダサい行為です。

そんなことをする人はクリエイターとは呼べません。

人の作ったものを自分のものにするという行為は、何もパクりだけとは限りません。

とはいえ、日本独特の「愛のある二次創作」は残して欲しいと思うのはヲタクである筆者だけではないはずです。

日本が密かに育んできた二次創作に対する暗黙のルールと掟を守って、大好きな作品を盛り上げるという行動は、大切にしていきたいものです。